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ムシャラフ大統領辞任 「テロとの戦い」にツケ回した米国

田中龍作2008/08/20
ソ連のアフガニスタン侵攻、テロとの戦い、核開発問題……パキスタンは米国のご都合主義に翻弄され続けた。しかし、国民のほとんどがイスラム原理主義の貧しい国に、米国がドルと軍事援助を湯水のごとく注ぎ込んでも、目論見通りにならないことを知る日がやっと来たようだ。
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パキスタンは米国にとって南アジアへの橋頭堡だった
 日本の新聞各紙(朝・毎・読)は、パキスタンのムシャラフ大統領の辞任を19日朝刊の一面トップで報じた。日経もトップではないが一面に掲載している。海外メディアはBBCテレビが辞任表明をライブで伝えたのをはじめ、「ニューヨークタイムス」「フィナンシャルタイムス」など欧米の有力紙もトップニュースで扱った。

 貧国だらけの南アジアを象徴する国、パキスタンの大統領辞任劇に世界が大騒ぎする理由は――。

 アフガニスタンとインドの両方に隣接するパキスタンは、米国の対ソ戦略上、最良の橋頭堡だった.

 筆者は2002年、アフガンスタンに入るのにパキスタンに暫く滞在した。入国ビザや部族地帯の入域許可証を取得するためだ。幹線道路にはトーチカが設けられ、鉄道は旅客列車よりも戦車や大砲などを満載した軍用列車が優先される。

 米国の経済援助にどっぷりと浸かりきったこの国は、橋頭堡としての役割をしっかりと果たしていた。その一方でイラク同様、米国の政策(ご都合主義)に翻弄され続けた。

 1970年代後半、ブット首相(昨年末暗殺されたブット氏の父)が進めていた核開発を阻止するため、アメリカCIAはパキスタン軍部をそそのかしてクーデターを仕掛け、ブット首相を引きずり降ろした(79年にブット首相は絞首刑となる)。

 ところが79年末、ソ連がアフガニスタンに侵攻すると米国は方針を全面変更。アフガニスタンへの前線基地としてパキスタンを抱き込む目的で核開発を容認する。さらにはソ連軍と戦うムジャヒディーン(イスラム聖戦士)を育てるために軍事援助、経済援助した。ムジャヒディーンの中には後の「9・11テロ」の首謀者とされるビン・ラディンもいた。

 援助はパキスタンの国家内国家と呼ばれるISI(軍統合情報本部)を通して続けられた。この時期の米国の援助がその後のパキスタン情勢を決定づけたとも言える。

 2001年、国際テロ組織アルカイーダがアフガニスタンを根拠地として「9・11」を実行すると、米国は対アフガニスタン政策を「テロとの戦い」と名づけた。

 米国がアフガニスタンに打ち建てたカルザイ政権は、タリバーンやアルカイーダの攻勢にさらされており、パキスタンの前線基地としての役割は一層重みを増している。パキスタン軍の協力は欠かせない。

 パキスタンの軍部は半分がイスラム世俗主義だ。欧米の文化とも馴染むイスラム世俗主義のムシャラフ大統領は、米国にとって都合のよい存在だった。

 だが、軍部の残り半分と国民のほとんどはイスラム原理主義だ。ムシャラフ大統領は米国にそそのかされ、アフガニスタンへの出撃拠点となっている部族地帯に軍隊を何度か入れた。部族地帯は原理主義のメッカでもある。大統領は国民や軍部(原理主義の方)の猛反発をかい、数度にわたり暗殺未遂に遭った。

 とはいえ、米国が今後も「テロとの戦い」を進めるにはパキスタン軍の協力は不可欠で、軍部を意のままに動かすには軍人出身の最高指導者が望ましい。

 今後30日以内に選挙が行われ新大統領が決まるが、連立与党の指導者の中から選ばれるのは確実な情勢だ。いずれも文民である。

 ムシャラフ大統領が登場するまでの文民政権(88〜99年)に対して米国は「七文句」をつけて経済制裁を課している。これから米国にはそのツケが回ってくることになる。特に有力候補の1人・シャリフ元首相は反米で鳴る。

 アフガニスタン戦争は抜きさしならない泥沼となっており、民主党の大統領候補オバマ氏さえも「(政権の座に就いたら)戦費を増大する」としている。

 だがツケの支払いを済ませないことには「テロとの戦い」も進められないだろう。イスラム原理主義の国に、米国がドルと軍事援助を湯水のごとく注ぎ込んでも目論見通りにならないことを知る日がやっと来たようだ。

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